考えたこと2

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日本の産業構造
ちょっと前にデービッド・アトキンソンが書いている本について書いた
実際に買って読んだが、コンサル出身だけあって説得力のある本だった。

彼は日本に長く住んで、日本人のことを知った上で、日本の一人あたりのGDPが低すぎることを憂いて、それに対する処方箋を書いている。
今回また『日本人の勝算 人口減少×高齢化×資本主義』という新書を出したのだが、その中で非効率な中小企業が多すぎることについて、言及している。
その元凶が、「中小企業基本法」だという。

アトキンソンは、働き方程度で、20年も日本経済が停滞するなどありえないという。
真の要因は「非効率な産業構造」を温存したことだ、とのこと。

「日本人はすばらしい能力をもっているのに、働き方が悪いのでその実力が引き出されていない。だから働き方を変えれば景気もよくなっていく、というのが彼らの主張です。
しかし、経済分析の世界では、これは「願望」というか、まったくの見当外れな分析だと言わざるをえません。これだけ大きな国の経済が「働き方」程度の問題によって、20年も停滞することなどありえないからです。
では、何が日本の生産性を低くさせているのでしょうか。これまで30年にわたって、日本経済を分析してきた私がたどり着いた結論は、「非効率な産業構造」です。高度経済成長期から引きずっている時代錯誤な産業政策、非効率なシステム、科学的ではない考え方などが日本の生産性を著しく低下させているのです。」

彼は女性の働き方を例にとって、要因分析の重要性を述べる。

「海外の要因分析では、女性が活躍できていない国は、労働人口の中で、規模が小さくて経済合理性の低い企業で働く労働者の比率が高いという傾向があることがわかっています。
これは冷静に考えれば当たり前の話です。小さな企業は産休や育休、時短などの環境整備が難しいので、どうしても女性が働き続けることのハードルが高くなるのです。これが一次的な問題です。女性を蔑視する価値観や保育所の数などは、あくまで二次的な問題にすぎません。
当然ながら、まずは女性が活躍できる産業構造に変革した後で、具体的な環境作りに取り組むべきです。しかし、一次的な問題を解決せずに、二次的な問題を解決するだけでは、根本的な解決にはなりません。つまり、女性活躍というのは、女性蔑視うんぬんや保育所の数という二次的な問題より、その国の産業構造によって決まるというのが世界の常識なのです。
このような要因分析をロクにしないまま「女性活躍」を叫んで、働くように女性の背中を押しても、生産性向上につながるわけがありません。」

これはその通りだと思う。
だから、日本の女性はパートばかり増えるのだ。

知らなかったが、アメリカの労働者の50%が大企業で働いているのに対して、日本では13%しかいない。
言われるように、「産業構造」が違っているということがよくわかる。
ここから、日本には「小さな企業が多すぎる」という問題につきあたる。

「低賃金、少子化、財政破綻、年金不足、最先端技術の普及の低さ、輸出小国、格差問題、貧困問題……さまざまな問題の諸悪の根源を容赦なくたどっていくと、「非効率な産業構造」という結論にいたるのです。」

そしてこの「小さな企業」はなぜ今でも多いのか、というと1964年の「中小企業基本法」になるという。
この法律では、規模が小さな企業を優遇したのだ。

「中小企業を応援して日本経済を元気にしようという精神からつくられた法律が、優遇に甘えられる「中小企業の壁」を築き、「他の先進国と比べて小さな企業で働く労働者の比率が多い」という非効率な産業構造を生み出してしまったという、なんとも皮肉な話なのです。」

1980年代まではそれでも人口が増えて経済は成長したが、90年代に入って人口増加が止まると、経済成長は止まった。
非効率な産業構造の悪い面が出てきたのだ。
それでも製造業が生産性が高いのは、ものを作るためには規模が大きいほうが有利であり、大企業が多いから、ということになる。

この「中小企業を守る」という精神が、「資本の自由化」による「外資脅威論」に拍車をかけて、資本の理屈による企業淘汰を防いでしまった。
大きい会社が小さい会社を買収してもっと大きな規模の会社になる、ということは「悪」だ、という意識すらある。
それが日本の産業構造を「守り」に特化させたということだ。

「このようにとにかく「会社を守る」ことが何をおいても優先されるようになると、経営者に必要なのは調整能力だけになっていきます。数字やサイエンスに基づく合理的な判断をしないので、他人の意見に耳を貸さず、とにかく「直感」で会社を経営するようになっていくのです。その暴走がバブルにつながります。
そんな「暴走経営」がこの20年、日本経済に与えたダメージは計り知れません。」

ぼくが勤めていた会社は、1985年に海外の親会社を買って、欧州とアメリカに子会社ができた、という珍しい会社だった。
おかげで、90年代に自動車関連の産業が海外進出したときに、最初から海外に工場があり、商売がスムースにできた。
もちろん、当時はまだまだ日本がコントロールセンターで、部品の承認作業は日本だったから、海外の工場や技術部をコントロールするのはぼくらの役割だった。
そのため、一時は海外の技術部と毎晩やり取りして、毎日英語でfaxを書いていた。
冗談抜きで、英語を書く量の方が、日本語よりも多かった時期もあった。
海外の子会社から、研修にどんどん日本に来る人も増え、出張の機会も増えた。

企業の規模が大きくなって、海外とのやり取りを通じて、当時の会社はグローバル化した。
やっぱり大きくなることで、労働者が得るメリットは大きい。
組織が大きくなって、女性のスタッフも増えた。
アトキンソンの言うとおりだ。

でも、なぜ日本の労働者はそんな状態でも職を変わらないのか、という疑問は残る。

やっぱり、雇用の流動化が先のような気がするのだが…。



| | 考えたこと | 23:46 | comments(0) | trackbacks(0) |
入試制度の悪影響
文科省はセンター入試を改革しようとしている。
まあ、それはそれでやってもらったらいいのだが、その試験を受けない人が増えているのにはどう対処するのだろう。
当初、この試験は高校卒業程度の資格を与える試験という意味合いも持たせよう、という議論はあったはず。
それはどこかに行ってしまった。

こないだの日経を見ていたら、高校2年制の3割は宿題をのぞく1日の勉強時間がゼロ、という記事があった。
就職希望者の6割近くは、休日に授業の予習や復習を全くしなかった、ということだ。
調べてみると、高校を卒業して就職をしたものが18万人。
卒業生全体は108万人だから、17%が就職希望と考えると、その6割は全体の1割程度。
まるで就職をした人が勉強をしないような記事だが、全体の3割の全く勉強をしない人たちのうち、2/3は就職希望ではないのだ。

世の中の人はあまり知らないかもしれないが、昭和の感覚で入試を考えてはいけない。
あくまで昭和の入試というのは、今の「一般入試」に当たる。
国公立は推薦、AOという一般入試以外の入学者は1割以下から2割程度だが、私学ではそんなことはない。

一般入試を受けているのは、早慶、MARCHでも6割以下。関関同立や産近甲龍で4割から5割台がほとんど。
関西の私大でいうと、一般入試を受けて入る学生はが半分以上のところはほとんどない。
780校ある大学で、半分の390校は45%以下になる。
ぼくのいた大学は現在35%程度。

当然、それらの一般入試で入ってきた学生と、推薦、AOで入ってきた学生は学力の差があることが多い。
もちろん、一般入試といっても、センター入試を利用しているわけではない。
下位の大学ではほとんどセンターなど利用する志願者はいないのが実情。
ぼくが学校法人に行った2004年でも、これが原因の学力の2極化問題はあった。
だから、入ってすぐに英語などはプレースメントテストをやらないといけないのだ。
入試を受ける人が半分以下だから、受けてない人は英語の実力などわからない。

間違って、下のクラスに入ったら、間違いなくやる気がなくなる。
それが早期退学の引き金になるから、学校も対応をする。

この記事の見出しには「高2の3割、1日の勉強時間ゼロ 宿題除く 希望進路で差」と書いてあるが、これはウソだと思う。

今の入試制度が、この状況を作り出しているのだ。
その比率を決めているのは文科省。
4年制大学では、推薦入試は半分以下、という規制がある。
どういうわけかAO入試は一般入試ということになっており、結局半分以上は一般入試、という枠はないも同然になってしまった。
そのことは文科省はわかっているはず。
センター入試の改革もやってもらったらいいと思うが、この大学入試の状況はもっと深刻だ。
多様性を求める、などという言葉に騙されて、教育システムが成り立たないようなレンジの学生が入ってくる。

そっちの改革もやってほしい。



| | 考えたこと | 00:34 | comments(0) | trackbacks(0) |