プレジデントオンラインに新井紀子国立情報学研究所教授が「
9割が教科書を読めていない」という記事を書いていた。
文字が読めることは「識字」といい、それは文章を読んで意味がわかる「読解」とは違うものだという。
その中で、教授が言っている「読解力」がどんなものか、という説明に納得がいった。
「算数の計算問題は解けるのに、文章題になるとわからなくなる」
「解けないのではなく、問題文が理解できないのだ」
文章題が解けるか、あるいは解けなくても意味はわかる、という学生は下位の大学では非常に少ない。
この問題は今から10年以上前から明らかだった。
仕事算という小学校の割合の問題がある。
Aさんはある仕事をやり切るのに10日かかります。Aさんが3日間仕事をしたら、どれだけ残っていることになりますか?というような問題。
就活筆記試験の参考書などを見ると、仕事算は全体を1と置く、と書いてある。
だから、全体を1と置いて、Aさんの一日の仕事量は1/10ということになる。
したがって、3日間で3/10の仕事をしたことになる。
どれだけ残っているかというと、全体の1から3/10を引いて7/10が答え。
この答えを導く解説を読んで、3日間で3/10だから、残りは7/10と書いてある部分がわからないから質問に来る。
1は10/10だから、10/10から3/10を引いて、7/10という説明がなかなか理解できない。
「1と置く」という表現の「置く」という意味も曖昧になっているかもしれない。
結局は線分図を描いて、理解させることになる。
こういう具合に、文章を読んで理解するためには識字力だけではダメということがわかる。
この学生の場合は、全体を1とおく、という部分がネックだった。
新井教授はさらに、「語彙の不足」が問題だという。
たしかに、この場合は「1」という言葉の意味がわかっていなかった。
この学生は10日間で仕事を終えるから、1/10と機械的にやっていた。
この1/10の分子の「1」の意味がわかっていなかったということになる。
結局は、「分数」の意味がわかっていないということだ。
こういうことが、就職筆記試験の手伝いをやっていると山のように出てくる。
記事には、
「文中の言葉の95%以上を理解していないとすらすら読めないという研究結果があるように、語彙の不足は読解のネックになります。特に、算数や理科で使う言葉は日常で使う意味とは違う場合もあり、それを理解していないとたった1行の文章でもわからなくなってしまいます」
とあるが、全くその通りのことが起こっている。
要は「数学が苦手という人のほとんどが数学の文章を読むことにつまずいていることがわかります」ということだ。
「今の子が活躍する2030年代には、事務職の50%がAI(人工知能)に代替されることが予想されます。つまり、文系の人が就く事務系の仕事は減り、賃金が安くなることが考えられます。一方、あらゆる分野がテクノロジーと関わることから、多くの仕事に理系のリテラシーが求められるようになるでしょう。その時代に職を失わないためには、文系でも理系の基礎知識を併せ持っていなければならない。プログラミングも関数も何もわかりませんという状態では、15世紀の人がタイムマシンで21世紀にやって来て働くような状況になってしまうのです」
現実にどうなるかはわからないが、文系でも理系のリテラシーが必要、ということは明らかだろう。
そうでないと、機械に使われる側になってしまうおそれがある。
新井教授というとAIが東大の入試を通るかという研究で有名だが、今はこの読解の問題に力を入れている。
頑張ってほしい。