考えたこと2

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プレッシャー
今まで色々なプレッシャーがあったが、印象的なものは、落研時代に初めて中トリ(仲入りの休憩前のトリ)をやった時のこと。

「口入れ屋」というネタをやった。
その前から、ぜひやりたいと思っていたネタで、40分くらいの長いネタ。

桂枝雀の得意なネタだった。

登場人物も多く、動作も難しく、長いセリフも多く、今から考えると実力以上のネタだったんだと思う。

寄席の1ヶ月くらい前から、食欲がなくなった。

自分ではすごく練習したと思う。
練習するにしたがって、プレッシャーが大きくなる。

事前の練習で、老人いこいの家というところで、落語の慰問をさせてもらうのだが、今ひとつ思うようにできない…という状態だった。

食欲不振はどんどんひどくなり、一日にうどん1杯という状況までいった。

週末に下宿から実家に帰り、寝ていると、夜中に背中が痛くなった。
朝起きて、家にあった「家庭の医学」という分厚い本を見ると、夜中に背中が痛くなるのは膵臓ガンだ、と書いてある。
膵臓ガンは治らないとも書いてあった。

がーん、という感じだったが、寄席には出ないといけないし、練習は続けないといけない。
やると言った以上、責任があるのだ。

中トリとはいえ、トリである。
客席を沸かせなければならない役目なのだ。

寄席の当日、着物を着て帯を巻いたら、10センチ以上余ってしまった。ウエストが細くなっていたのだ。

舞台は、予想通りさっぱりワヤだった。

40分のネタを30分くらいでやったと思う。
客席で師匠がジェスチャーで、ゆっくり、ゆっくり、と指示してくれていたが、わかっていても変えられない。
客席の後ろの方で、手を動かしていた師匠の姿だけは、目に焼きついている。

プレッシャーに負けて、早く終わろう、という状態になってしまっていたんだと思う。

自分がやった落語のテープは全て持っているが、これだけは未だに聞く気にならない。

こんなにひどいプレッシャーへの負け方はそれまでも、それからもなかったと思う。

結局、寄席の翌日に病院に行き、「膵臓ガンだと思う」と言ったら、医者が「その年で膵臓ガンにはならない」と言って、「そんなに心配ならバリウムでも飲め」と言って胃の検査を予約した。

げんきんなもので、病院から出たとたんお腹が空いて、食堂に行ってごはんをたらふく食べた。

その日から、すっかり元気になり、もとの生活に戻った。

プレッシャーに負けるとは、こういうことなのか、とは少し後で思ったこと。

この時得た教訓は、自分の実力を知ることと、練習だけではカバーできないものがある、ということだ。

努力さえすれば、何でもできる…とは思わない。それは不遜な考えだと思う。
努力して、自分を納得させることは可能だ。でも、自分以外の人に必ず認めてもらえるとは限らない。

それを知れたことは、大失敗の一つの教訓だった。

ちょっと、負け惜しみが入っているが…。


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