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2016.02.16 Tuesday
世も末
少し前になるが、日経の記事を見て思わず笑った。
「頭の体幹」を鍛えなければならない、という提言を人材育成に取り組むNPOが出したとのこと。 「頭の体幹」とは、まるで脳みそが筋肉でできているという感じがする。 昔から日本には「地頭」という言葉がある。 地頭を鍛えようということを言いたいのだろうなあ。 しかし、頭の体幹とは…。 NPOの中心メンバーは法政大学の教授で、さもありなん、という感じだ。 以前から法政大学は「キャリアデザイン学部」というのを作ったり、一時はアルバイトで単位を出すというような取り組みをしていた。(今はアルバイトで単位というのはやっていないようだ) キャリアデザイン学部では経営学、教育学などを学ぶらしいが、だいたいカタカナの学部は総じてあまりスジがよくない。 そこに行くくらいなら、経営学部や教育学部に行けよ、ということだろう。 大学側もそのあたりの先生で、元になる学部からはみ出した人を入れているようなところが多いと思う。 本来、キャリアデザイン学などという学問はなく、どちらかと言うと教員がそれを学んで、学生指導に活かすというようなものだ。 それをいきなり学生に教えようというのだから、よく文科省が学部設置を認可したものだと思う。 漬物が主食になった感じだなあ。 このNPOは産学連携してやっているので、大学から企業への提言と、共同で取り組むもの、企業から大学への提言に分かれている。 提言は全部で12項目。 大学への提言 大学教育の意義を正しく伝える 教員の評価基準として教育能力をより重視 教員が教え方を工夫する キャリアセンター職員の専門性を高める 共同で取り組む活動への提言 外部講師に対して期待することを明確に 学生と社会人が少人数で議論する場を増やす インターンシップを通して社会と企業を知る 企業への提言 採用面接で学業について質問する 採用面接へのルートを多数確保する 内定後の採用前教育を長期的視点で行う 考える習慣を身につけさせる 入社後も「頭の体幹」を鍛え続ける まあ、こんな身も蓋もない提言、よく出したものだと思う。 企業から見たら、大学は大学教育の意義を正しく伝えていなくて、教員は教育能力が低くて、教え方も工夫せず、キャリアセンターの職員は専門性が低い、ということだ。 だから、それらをちゃんとしなさい、という提言なんだろう。 たしかにこの先生の意見は概ね正しいと思う。 法政大学の教授が代表として写真入りで新聞に載っているところをみると、法政大学でもこのような状況なんだろう。 一応、MARCHと呼ばれる私学の2番手(明治、青山、立教、中央、法政、関西なら関関同立)がこれだから、日本の大学も落ちたものだ。 これなら、文系学部は廃止(訂正されたようだが)ということもうなづける。 しかし、もうちょっと書き方があるのではないか。 企業への提言など、意味不明である。 採用面接でどんな質問をしようと勝手だし、大学がちゃんと学業をやらせていないから学業のことなど聞いても仕方がない、という企業が出てくる。 内定後の採用前教育など、卒論のジャマだからやめてくれ、というのならわからなくもないが、それを長期的視点で、というのはどういうことか。 考える習慣をつけさせる、とは大学に言っていることではないのか。大学で考える習慣がついてないから、企業でつけさせないといけなくなる。 しまいに、入社後も「頭の体幹」を鍛えるときたもんだ。 いったいどこに大学の責任があるのだろうか。 もう脳みそが筋肉になっている。 戦後70年。 民主主義教育の結果がこれだ。 世も末だと思わざるを得ない。 池田晶子が言っていた、「教える人を教える人がいない」という現状。 笑えない現実だ。 そうでない人もいるのだが…。 最後に池田晶子の文章を引用する。 「 私は直には知らないことだが、敗戦の焼け跡、つまりまさしく最悪の状態から立ち上がってくる人々のパワーというのは凄いものだったと、知っている人々は口を揃えて言っている。しかし、立ち上がってくるその方向を、どうやら間違えていたらしい。五十数年かけて、われわれは一国を滅ぼしつつあるらしい。五十年かけて滅んだものを立て直すには、通例二、三百年はかかるというのは、さる碩学の言である。建造物ではない。壊れた建造物なら、数年数か月で再建できるが、いったん壊れた国家や社会を再建するのは、容易なことではない。ことは人心の問題だからだ。人心の教育、再教育には、何世代にもわたる忍耐と覚悟とが必要なのだと。 このような議論の運びには、その通りと納得しつつも、だからどこからそれを始めるのだ、始められるのは誰なのだ、という現実的な疑問に、いつもハタとぶつかってしまう。やっぱりニワトリとタマゴなのである。教育こそが必要なのだが、教育する人を教育する人がいない。警察官を取り締まる人がいないのと同じことである。」 |
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