考えたこと2

2024.9.24から、今までhttp:で始まっていたリンクが、https:に変わります。申し訳ありませんが、リンクが見られないときは、httpsに変えてみてください。
CALENDAR
<< June 2008 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
+SELECTED ENTRIES
+RECENT COMMENTS
+CATEGORIES
+ARCHIVES
+PROFILE
+OTHERS
匂いの記憶
子どものころ、病気になると家の近所の内科に連れていかれた。

伊藤先生という女医さんで、メガネをかけた、ちょっと厳しそうな先生だった。

ぼくは、お腹が弱かったので、たいがい吐き下しでお世話になったと思う。

当時のお医者さんというと、聴診器、触診、そして注射だった。

注射器は、消毒用のガーゼ、ガラス製のアンプルなどとセットで、ちょっとソラマメをゆがめたようなカタチの、きれいな銀色のお皿の上に載っていた。
注射器はもちろんガラス製だった。
今のようにモノがあふれている時代ではなかったから、ディスポーザルのものなどなかった。
たいがいのものはガラス製で、銀色の四角形の鍋のような、消毒する機械の中に入れてあった。
何でも消毒していたのか、お医者さんというと、待合室に入ったとたん、消毒液の匂いがした。
あの匂いと伊藤医院の情景はセットになっている。

今は安全のために、注射器は使い捨てになった。
しかし、昭和30年代、40年代はガラスの注射器を消毒して使っていた時代だった。
あのころ、たくさんの人が肝炎や血液からかかる感染したのだろうか…。

疫学や病理学、細菌学などという学問がある。
こうすれば、病気感染が防げるという知識があって、あの消毒液の匂いや銀色の消毒器があったのだろう。

それでは不充分ということだったのか、それとも患者の数が増えていちいち消毒していられないということだったのか、それともミスを防止するためか…で、ほとんどの機器がディスポーザルになった。
それとともに、医院の消毒液の匂いも、ほとんどなくなったのだと思う。

あの匂いをかぐと、病気と、注射と、診察室、銀色のお皿を思い出す。

そして、あの匂いには何ともいえない安心感があったように思う。



| | 考えたこと | 23:13 | comments(0) | trackbacks(0) |
煙が目にしみる
原題は"Smoke gets in your eyes"。

プラターズという黒人のグループが昔歌っていた。
スタンダードナンバーの一つ。

どこでこの曲を覚えたのか、あまり記憶がない。
二十歳過ぎには知っていた。

ゆっくりしたバラードで、「煙が目にしみる」という邦題と、"Smoke gets in your eyes"という原題がよく合っている。
原題よりも邦題の方がいい、という名曲。何度かここにも書いたかな…。

この曲が記憶に残っているのには理由がある。

働きはじめて2年目くらいだったか…。
先輩のNさんが、三宮の「会員制クラブ」に連れていってくれた時に、リクエストした曲。

そこは、シックな扉に「当店は会員制です」というプレートがあった。
「え、こんな店に入るんですか?」と思わず聞いてしまったが、「そんなたいしたトコとちゃうネン」と言いながら扉を開けて入った。

小さな店だったが、グランドピアノが置いてあって、その回りがカウンターになっていた。
Nさんは馴染みの客らしく、お店の人と親しげに話をして、おもむろにカウンターに座った。
緊張しながら、ぼくも座って、水割りをもらった。
グランドピアノの回りのカウンターで、ウイスキーを飲みながら、弾き語りを聴く時が、自分の人生に急に訪れるとは…という驚きがあった。

ピアノを弾きながら歌っていたのは、当時ぼくよりも少し年上の女性。

Nさんは、この人とも親しげに話をしていた。

「何でも言うたら、歌ってくれるデ」と言われ、その時に頭に浮かんだのが「煙が目にしみる」だった。

「煙が目にしみるをお願いします」

とおずおずと言った、その瞬間をよく覚えている。

残念ながら、「その曲は知りません…」と言われ、聞くことはできなかったのだが、その時以来忘れられない曲になった。

その店には、その時一度だけだった。
けっこう高い店だったと思う。

後で知ったのだが、この「煙」というのは、タバコの煙かと思っていたが、それはマチガイ。

恋の炎が消えたあとの煙…という意味あい。

いい歌です。



| | 音楽 | 01:22 | comments(0) | trackbacks(0) |