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2007.08.14 Tuesday
実験室
会社に入って最初の仕事が実験だった。
配属された時は驚いた。そんな部署に行くとは思っていなかったからだ。 高校の化学や生物の時間に実験をして以来、実験などしたことがなかったし、一体何をするんだろう…という感じだった。 配属後は、実験室と事務所を行ったり来たりする毎日になった。 内容にもよるが、実験室というのはたいがいアブナイところだ。 ぼくのいた実験室はかなり大がかりなもので、回転するドラムがあった。 もちろん、回転中に巻き込まれたりしたら、即死である。 ドラムに突起物をつけたりするのだが、それが外れて飛んだりしても、危険である。 だから、ドラムを回している時には、扉を閉めて、外から人が入れないようにしていた。 計測室の窓は厚みが1センチくらいあるもので、少々のことでは割れたりしないものだった。 それでも、実験中に回っているドラムのそばをウロウロしたり、今から思うとアブナイこともしていたなあ。 だから、実験室はきれいにしておかないといけない。 ぼくは整理が下手だ。机の上はきたないし、引き出しの中はあまり整頓されていない。ファイリングも上手ではない。 そんなぼくが管理していたのだから、テストするサンプルがあふれてしまったり、山積みになっていて、お世辞にもきれいとは言えない時もあった。 それでも、きれいにしておかなければいけないという気持ちは強くて、歴代の担当者の中でも、実験室をきれいに使っていた方だと思う。 毎週月曜日の朝は掃除から始まる。 ほうきで掃き掃除をして、モップでふき掃除をして、実験器具をちゃんと整理して、所定の位置に並べる。 毎週ちゃんとやっていると、そうしないと気が済まなくなるのだ。 実験で使うホース類は、ちゃんと巻き取ってきれいに置かないと気持ちが悪かったり、計測室の器具にほこりがかぶっていたら、雑巾で拭かないと気持ちが悪くなったりする。 外部からの見学が来る時には、朝から掃除をした。 いつもよりも、丁寧にやるのだ。 最初は、報告用のデーターを取るための実験だけだったが、何年かそこで過ごすと、開発のための実験をするようになる。 「こうなるハズ」とか、「このサンプルはこういう結果にならないといけない」とか、そういう思いで実験にのぞむ。 仕事自体は単純なものだが、そういう思いがあると、結果が出るまでの計測室での待ち時間など、心地よい緊張がでてくる。 実験前に立てた仮説があたる時もあれば、外れる時もあった。 「そんなはずはない」と、再測定をやったり、条件を変更してやってみたり…思い出すとなつかしい。 就業時間など関係がなくなる。 前にも書いたが、当時の計測器はアナログだったから、一連のテストはその日のうちにやらないと、精度が悪化するので、その日のうちにやらないといけないのだ。 5時、6時、7時…夜中までやったこともあった。 思い通りの結果が出ると、いくら残業しても事務所に戻る足取りが軽い。 そんな日はめったになかったが…。 実験室では、いろんなことを教わった。 測定器の使い方、掃除をすること、仮説を立てること、要領よく仕事すること…。 メーカーでは、設計が技術の中心にいて、実験はその外側にいる。 でも、実験というところは、製品を評価するという、ユーザーに一番近いところにいる。(開発のためだけの実験というものもあるが…) 会社の外側と内側の架け橋になるところだ。 実験室はユーザーとメーカーをつなぐ、大切なところだと今でも思っている。 同期の人たちが早々と帰る中、残業が多くてボヤキもしたが、そんな大事な仕事だと、エライ先輩たちに教えてもらった。 やりがいは、仕事自身の中にあるのではない。やる人の思いに、やりがいが出てくるのだろう。 実験室というのは、そんなことをぼくに教えてくれた場所だった。 今でも、どこかの見学で、「実験室」という言葉を聞くと、なつかしいと同時に、そこで働く人たちに親近感を覚える。 最初に働いた場所は、誰にとっても印象に残るところだと思うが、ぼくは実験室という場所で過ごせて、よかったと思う。 |
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