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2015.07.10 Friday
コミュニケーション力 齋藤孝 岩波新書
今の就職で重要なのはコミュニケーション力だといわれている。
この本では、それは「意味や感情をやり取りする」ことだという。 巷では、コミュニケーションというと、情報をやり取りすることのようなイメージがあるが、著者は情報には感情の次元が含まれておらず、人間関係を円滑に進めるためには感情をお互いに理解することが必要であり、そこまで含めて「コミュニケーション力」だという。 これを鍛えるためには、コミュニケーション力のある人と対話することだという。 「テニスの上手な人やキャッチボールの上手な人を相手にすると、気持ちよくできる。自分が上手くなったような気がしてくる。すると、どんどんプレーがよくなり、自分でも思いがけないパフォーマンスが生まれる。これは対話でも同じだ。対話力がある人と話すと、アイディアが生まれやすい。そうした人を会話のパートナーにして、クリエイティブな対話の感覚を積み上げていくことが、コミュニケーション力向上の王道である。」 意外だが、書くこともいい。 「文章を書くという作業は、自分自身を対話する作業である。自分でも忘れていることを思い出し、思考を掘り下げる。長い文章を書いたことがある人ならば、それが苦しくても充実した作業だということを知っている。日記をつけるという行為も、自分自身と向き合う時間をつくることになる。言葉になりにくい感情をあえて言葉にすることによって、気持ちに整理がついていく。言葉にすることによって、感情に形が与えられるのだ。」 若い人たちが「〜ていうか」という言葉を多用するが、それは安易に話題を変えることになり、それに対して警鐘を鳴らしている。 そして、コミュニケーション力は1つの話題を掘り下げる方向にあると言っている。 「自分の身の回りの情報を伝え合うだけでは、コミュニケーション力は向上しない。相手の経験世界と自分の経験世界を組み合わせ、一つの文脈を作り上げていくことで、次の展開が生まれる。それがコミュニケーション力のある対話だ。すなわち、コミュニケーション力とは、一言で言えば、「文脈力」なのである。」 「私は大学生に四百字詰め原稿用紙で十枚以上のレポートを課題として出す。その意図は、文脈力をつけるということにある。四千字以上の文章となると、文章の内容を構築していく必要が生まれる。勢いだけで走り切るには少々長い。原稿用紙一枚を一キロメートルと想定して考えてみるとわかりやすい。一キロ程度ならば、とりたてた準備をしなくても走ることはできる。しかし、十キロともなると、からだの準備を整えておかなければ、走り切ることは難しい。このからだの準備に当たるものが、文章の構成である。事前にメモを作り、どのような順序で論を進めるかを考える。メモなしにいきなり一行目から書き始め、思いに任せて書くというやり方では、長い文章を書き慣れていない者に取って、乾燥するのは難しい。」 「〜ていうか」と同じで、「全然話は変わるんだけど…」というのもヨクナイ。 そういう人の文脈力は高くはないという。 では、どうしたら文脈力をつけることができるのか?ということになる。 「それは会話の最中にメモをとることである。私は、対話中には、ほぼ必ずメモをとる。自分がインタビューされる側であっても、メモをとりながら話をする。相手の質問をまず聞く。できれば相手が用意してきている質問をはじめに全部聞き出す。そしてそれをメモする。それに関する返答も、質問を聞きながらキーワードだけどんどんメモしていく。自分がこれから話す可能性のある事柄を、とりあえずキーワードでマップしていくのである。もちろん全部を話すとは限らない。しかしキーワードをメモしておかないと、言い忘れてしまうことが多くなる。相手の質問をメモしておくことによって、的外れな返答をしにくくなる。また、質問相互の関係も考え合わせて、自分の話を展開していくことができる。」 でも、経験上、メモをする人は驚くほど少ないという。 それを嘆いてこう言う。 「文字こそは、文明を加速させた一番の要因である。文字以前の社会は、言葉は持っていたが、文明はさほどの加速を見せなかった。文字の発明以来、数千年で急速に文明は発展した。それほどに文字の力は絶大だ。にもかかわらず、その文字の大いなる力の恩恵を受けようとしない会話が多いのには驚くばかりだ。」 こんなことが、第一章コミュニケーション力とは、の前半で語られる。 第二章では、コミュニケーション力の基盤として、「目を見る、微笑む、頷く、相槌を打つ」の4つをあげる。 まあ、当たり前のことだ。 最近コミュニケーション力が問題になるのは、戦後の家庭にも問題があるという。 「太平洋戦争後、高度経済成長とともに、各家庭には一つずつ家の風呂がつくようになった。一人ひとりが別々に風呂に入るようになり、個室で眠る子どもも少なくなくなった。他者と関わり合うことを「煩わしさ」とだけ受け取る子どもたちが増えてきた。人と関わらなくても済むのならできるだけ関わりたくない、という引きこもり指向は強まった。泊まりがけの合宿などにおいても、一人部屋でなければ眠れないといった苦情もよく聞かれるようになった。寝食を共にすることは苦痛、と捉えられる傾向が強まったのである。」 社会の個人化が進んだのだろう。 誰かが、日本は西欧の個人主義を間違って真似したと言っていた。 西欧では個人の部屋が与えられるが、ルールがあって、必ずみんな一緒に居なければならない時間は、家族が一緒に過ごすということだ。 場の雰囲気をリラックスさせることも必要だ。 そういう手法も書いてある。 演劇の効用についても書いてある。 今は演劇を就活のセミナーに取り入れているところもあると聞いた。 そういうこともコミュニケーション力に含まれるのだろう。 第三章では、いろいろな技法について語る。 言い換え力やプレゼンのコツ等々について書いてある。 ブックオフで105円で買った。 2004年に初版。 結構売れた本だと思う。 第一章の、コミュニケーション力とは、という章が一番面白かった。 第二章、第三章のいくつかは、実際に使ってみたことがある。 そういう役に立つ本だと思う。 でも、コミュニケーション力とは、というところを押さえておかないと、意味がない。 単なる情報伝達ではなく、感情を言っているところがエライ。 |
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