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2007.09.01 Saturday
エヌサン
初めて乗った車は、ホンダのN360という軽自動車だった。
360というのは、当時の軽自動車の規格が360ccだったから。 今は660ccになっているが、あの頃は小さなエンジンだった。 シリンダーの容量が、牛乳瓶2本で、4気筒だったから、一つのシリンダーはコップ半分くらい。 夏はいいのだが、冬場はエンジンをかけるのが一苦労だった。 今は付いているクルマなどないが、チョークというノブがあって、それを引っぱるとガソリンがよけいに流れる。 チョークを引いて、アクセルを何度か踏んでおいて、キーを回す。 慣れると、うまくエンジンが回るのだが、エンジンがかからないからといって、アクセルを踏みすぎるとよけいにかからない。 ガソリンと空気の混合気を着火する、スパークプラグがガソリンで濡れてしまって、かからなくなるのだ。 そうなると、プラグが乾くまで待たなければならない。 ムリにエンジンをかけるために、キーを回してセルモーターを回しすぎると、バッテリーが上がる。 クルマに慣れないと、何かと困る…そんなクルマだった。 下宿が近い友達と3人で一人1万6千円ちょっとずつ出して、5万円でそのまた友達から買ったクルマだった。 N360だから、エヌサンという略称。 Nさんではない。エヌサンビャクロクジュウだから、エヌサンだ。 当然、マニュアルシフトだった。 これまた、慣れないとバックギアが入らなかった。 エアコンもないし、夏場に雨が降ると、ヒーターを入れなければならない。フロントウィンドウが曇るのだ。 窓は手で回して降ろす。 三角形の窓がついていて、その部分だけ開閉できる仕組みだった。 ラジオはAMだけ。よくナイターを聞いた。試合が佳境に入って、クルマの中で友達と聞き続けたこともあった。 きっと今のクルマとは比べものにならないくらい、うるさかったハズだ。 たぶん、バイクのエンジンから作ったのだろう…ビーン、ビーンというエンジン音だった。 回転数もバイクなみに高かったんだと思う。 思う…というのは、回転計はついていなかったからわからないのだ。スピードメーターの横には大きなアナログ時計がついていた。 そのクルマで、よく走った。 夏場、昼間は暑いので、夜中に走ったものだ。 どれくらい乗ったのだろうか…。 半年くらいだったかな。 ある日、エンジンがストンと止まって、それっきり動かなくなった。 整備工場に連絡して、引き取ってもらって、エンジンが壊れたということで、そのまま廃車になった。 エンジンオイルなど、おかまいなしに走り続けたツケがきたのだろう。かわいそうなことをした。 廃車料金が5000円だったと思う。 緑色のエヌサンだった。 短い間だったが、あのクルマにはお世話になった。 仲良くならなければ、ちゃんと動かせない。 今のクルマのように、だれでもすぐにエンジンがかけられて、走れる…というような代物ではなかった。 でも、何か人間味があったなあ。 丸いヘッドランプで、少し古いミニクーパーに似ているデザイン。 ちょっととぼけた顔のかわいらしいクルマだった。 たしか、1枚写真があったハズだ。 でも、白黒だったから、緑色かどうかはわからない。 どんどんクルマは電子化していっているが、エヌサンは機械のかたまりだった。 機嫌が良い日もあれば、悪い日もある…。 今のクルマは便利だが、「不便な楽しさ」を持ったクルマだった。 だから、ストンとエンジンが止まった時のことは忘れられないし、かわいそうなことをしたと今でも思っている。 |
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