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2018.09.20 Thursday
加齢現象
「肝心なことはすぐに忘れ、忘れてしまいたいことはいつまでも忘られぬ。」
「剣客商売」の主人公、秋山小兵衛の言葉。 作者の池波正太郎も、そういう思いがあったのだろう。 彼がこれを書いたのが60代。何となくぼくにもわかる。 人によってばらつきはあるのだろうが、50代後半くらいから、そういうのは始まる。 何かをしようとして、立ち上がり、歩いている最中に何かを話しかけられ、それが終わると「自分は何をしようとしていたのだろう」と考える。 しばらく考えて、忘れたと思い席に戻ると思い出したりする。 還暦というのはよくできたもので、昔に比べて今は相対的に若くなったとはいえ、やっぱりいろんなところでガタが出てくる時期なのだ。 身体能力だけではなく、脳の能力もそうなる。 だから、いまやろうと思っていた肝心なことを忘れてしまう。 それでも、過ぎ去った昔のことは覚えている。 ああ、あの時、あんなことがあったとか、どうしてこちらを選んだのだろうとか、あの時あんな失敗をしてしまったとか、そういうことは忘れられない。 もう過ぎ去った今となっては、忘れてしまいたいのだが‥。 認知症になっても、昔のエピソード記憶は残っている場合があると聞いた。 一度脳の奥にしまわれた記憶はなかなか消えないのだ。 だから、年をとったら子供に戻ると言われるのだろう。 記憶は人間そのものだ。 身体の細胞は入れ替わって、ほとんど別人になっても、記憶は消えない。 それが人間を形作っている。 認知症になると、新しい記憶は覚えられないし、消えていくということだ。 残念なのは、最近の何十年かの記憶がどんどん消えていくということ。 知り合いの顔も忘れ、どんな関係だったかも忘れる。 自分が経験したことも忘れる。 要するに自分を失っていくのだ。 それは辛いだろうと思う。 でも、長寿化にしたがって、どんどん認知症は増えている。 社会とのつながりがなくなると、そうなりやすいのかもしれない。 人間は「人の間」と書くように、関係の中で生きているからだ。 他人との関係がない「ヒト」になって、人間社会で生きるのは大変だ。 発症がゆっくりだから、なかなか薬もできない。 人によって、ばらつきもあるのだろう。 加齢によって、いろんな不具合が起こる。 昔はそれを体験できるヒトはほとんどいなかった。 寿命が短かったからだ。 でも、今は寿命が長くなって、そういう人がどんどん増えている。 これは喜ぶべきことなのか‥。 |
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