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2010.09.09 Thursday
山本周五郎 さぶ
病院で読んだ本の事を書く。
山本周五郎の「さぶ」という小説。 ひとことで言うと、重たい小説だった。 人間の一番醜い部分と、一番きれいな部分を書いて、無理がない。 人は一人で生きているのではない。 一人が生きるためには、多くの人が関わっている。 だから、時には風のにおいがわかるように、気持ちの余裕を持たないといけない。 作者は世の中は悪いことがたくさんあるが、よいこともあり、捨てたものではないという姿勢。 山本周五郎は実家にたくさんの本があり、名前は知っている。 うちの実家の両親、特に母が好きで、全集もある。 たくさんの本を整理したが、あの全集だけは捨てられないと母が言っていた。 20代のころ、一度文庫を買って読みかけたのだが、面白くなかった。 題名も覚えていない。 若すぎたのだろう。 当時は時代物では柴田錬三郎や司馬遼太郎、池波正太郎などを読んでいた。 柴錬や池波はやはりエンターテインメントだ。 小説の醍醐味を教えてくれた。 しかし、もう一段深い味わいがこの小説にはある。 どちらも、すばらしい。 ただ、種類が違うだけだ。 さぶという、純粋さをそのまま表したような、世に言う愚鈍な、だまされやすい人間と、もう一人栄治という少しひねくれた、ぶっきらぼうな江戸の職人でタフな人間を対置して小説は進む。 小説のほとんどは栄治の人生を書いている。、 自分がこういう境遇になったら、栄治まではいかなくても、同じようなことを考え、実行するだろうという気持ちになる。 しかし、そこで紆余曲折を経て、栄治は止揚する。 全てを飲み込んで、そしてより高い精神的な地点に上がるのだ。 ここがひとつの見せ場だろう。 二人の女性が登場するが、彼女らの役割も大きい。 そして、最初と最後はさぶ。 さぶの純粋さ、一途さが胸を打つ。 重たい小説だが、読後はさわやかだ。 山本周五郎という人は、全ての賞を固辞したらしい。 多くの著作を残しているが、ぼくが読んだのは、この本が一冊目。 名作といわれる一冊から入った。 若い人はなかなか読めないのではないか。 自分がそうだったから言うわけではないが、20代では難しい。 やっぱり、中年になってから、面白さがわかる。 この小説が、作者の晩年の作だからそうなのかもしれないが…。 しかし、名作である。 |
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