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2007.11.09 Friday
えー
昨日に続いて落語のはなし。
尊敬する先輩が、素人の落語は最初の一声、「えー」で決まると言っていた。 落語の出だしはだいたい決まっていて、ぼくは「えー、しばらくのあいだ、お付き合いを願っておきますが…」という言葉に決めていた。 この、「えー…」の一声が伝えるものは大きい。 亡くなった枝雀は、落語というのは舞台の上から「こちらが笑わせましょう」、客席では「そちらが笑いましょう」という約束事の上で成り立っているものだと言っていた。 そのためには双方に信頼がなければならない。 その、信頼関係を築くのが、最初の一声「えー…」である。 落研時代、何度か素人の寄席を見に行ったことがあるが、たしかに、面白い演者は最初から面白いとわかる。 正確には、「面白そうだ」と思えるのだが、これにはあまりハズレがない。 やっぱり、最初の「えー」の一声で何かが伝わっているのだ。 これが、「笑わせましょう vs 笑いましょう」の約束事が成り立ったということなんだろう。 プロの場合は、出てきた時からある程度の演者の知識があり、「あ、あの人や」という了解があるので、最初の一声以前の信頼関係がある。(逆に、マイナスの信頼を得ている演者もいるが…) でも、素人はそれがない。 だから、「えー」が大事なのだ。 「えー」という声の高さ、張り、声質、顔の表情やしぐさ、目線、表情…何が影響を及ぼしているのかはわからないが、その瞬間に何かが演者と聞き手の間で了解される。 自分に落語対する自信、余裕といったものは、すごく大事だ。 それは、たしかに「えー」に表れる。 練習不足などで、演者に不安があると、すぐにわかる。 聞き手がそれを心配してしまうと、もうダメだ。笑えない。 きっと最初から100%の力でやってはダメなんだと思う。 最初は80%以下の力で始めないと、余裕が感じられず、笑えなくなるような気がする。 もちろん噺に入ったら、100%の力を出せばよい。 でも、話しはじめは力んではダメだと思う。 適度に力を抜いて、余裕を持って、客席を見渡し、笑顔で「えー、しばらくのあいだ…」と始められれば、よいのだろう。 今だからわかる…。 あの頃は、そんなことはわからなかった。 だから、失敗も多かったなあ…。 |
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