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2012.02.24 Friday
着陸間際
バッタもん、というのはよく似ているけれど安い、うさんくさい品物のこと。
前にも一度書いたが、ぼくらが小さい頃はそんな言葉はなかった。 80年代に香港に仕事で行った。 当時、まだ香港といえばいろんな高級ブランドが安く変える、と言われていた頃だ。 とは言っても、まともな店ではほとんど扱っておらず、いかがわしいところでしか買えないというような時代だった。 1週間くらいだったか。 客先のディーラーに?育をするというプログラムだった。 当時の香港はイギリスの支配下にあり、何となくエキゾチックな雰囲気があった。(その後行っていないので、今は何とも言えないが…) ホテルのフロントでは、中国語を話しているのかと思ったら、中国訛りの英語だったり、屋台の店のすごい賑わいだったり、香港の漢字は日本人にもわかる漢字だったり、論語が書いて通じたり、いろんな事を思い出す。 とにかく、料理がうまかった。 後日行った上海より、圧倒的にうまい。(これも今はわからない) 接待でいいものを食べさせてもらったと思うが、それ以外にも屋台の朝粥などもおいしかった。 そこで仕事をして、帰路についた。 帰りの飛行機はエコノミーの3席つながったところで、ぼくは通路側だった。 内側の2人は、背広を着たサラリーマンで50代くらい。一人が手荷物でオシロスコープを持っており、一見して香港に何かの仕事で来たという風体。 一人が「社長」と呼び、もう一人が「部長」と呼ばれる人だった。 離陸早々アルコールを頼みまくり、上機嫌だった。 こう言っては失礼だが、エコノミーに社長と部長で乗っているということは、あんまり大きな会社ではないだろう。 当時はバブルだったが…。 食事も終わり、あと1時間くらいで着くという頃、二人はゴソゴソと荷物を出して話し始めた。 「しかし、これ高かったなあ」 「そうでんなあ。こんなん家族に見せたったら、びっくりしよるやろなあ」 「社長のは時間合わせとるんですか」 「合うてたで」 「よし、ぼくも合わせとこ。今何時でっか」 聞いていたら、どうも香港でブランド物の腕時計を買って、だいぶ高いものについたらしい。 もちろん、定価よりはだいぶ安いのだろうが。 チラッと見ると、社長の方が黒いクロノグラフで、部長の方が金のカルチェのような時計だった。 ぼちぼち伊丹が近づいてきて、シートベルト着用のサインが出た。 部長はまだ時計をいじっていて、話している。 「お、さすがに高い時計やなあ。あれ、時間合わそうと思たら、針が逆に回りよる。さすがに舶来もんは違うなあ。」 ぼくは吹き出しそうになったが、こらえた。 ああ、これはバッタもんを買わされたという事だ。 そうこうするうちに、「あ、取れた」と部長が言ったかと思うと、リューズが飛んだ。 もちろん、あんな小さな部品だから、なかなか見つからない。 おまけにシートベルトをしながら、探すのは大変だ。 「そんな、高い時計やのに、どないすんねん」 「こんなん、家で言われへん」 部長は半泣きだった。 「まあ、飛行機が止まってから探させてもらえや」 ぼくも足元を見たが、まったくわからない。 そのうち、空港について、シートベルト着用のサインが消えた。 部長と社長は、飛行機が止まってもリューズを探していた。 もちろん、ぼくは探すののジャマにならないように、早々に席を立った。 絵に描いたような気の毒な話だが、これは本当の話。 まだ香港でブランド品のバッタもんが売られていた時代。 今から思うと、あの頃はよかったと思う。 あの部長には気の毒だったが…。 |
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