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2012.02.10 Friday
二乗と自乗
美術の先生を思い出したら、数学の先生も思い出した。
S先生という、大きなメガネをかけた、スポーツ刈りの先生だった。 この先生は今なら暴力教師と言われているだろうなあ。 普段はそう暴力的ではないのだが、何かこだわりがあって、べき乗を習ったときに誰かが「2乗」を「自乗」と言ったら、スイッチが入って猛烈に怒られた。 何か悪い思い出でもあったかもしれない、というくらい強烈だった。 この先生の名物は、サンドイッチといって、両手でいっぺんにビンタをするというものだった。 めったにしないのだが、「自乗」でひっかかるとえらいことになる。 ぼくは1年、2年とS先生に習ったのだが、学年で11組もあったから、1年の時はS先生に習ってなくて2年で初めて習うという人もクラスには当然いた。 かわいそうだったのは、Yさんだった。 1年の時は別の先生で、「自乗」と言っていたのだろう。 参考書をみても、2乗については自乗とも言う、と書いてある。 知らないということは、恐ろしいことだ。 何かの拍子に「自乗」と言ってしまった。 1年の時にS先生に習った生徒は、こらあかん、と思った。 「前へ出てこい」とS先生が言う。 Yさんは何だかわからないという顔で前に出る。 そこでS先生が「自乗はあかん。2乗と言え」と言いながら、両手を広げて一度に両方の頬をビンタした。 あの時は、本当にYさんは気の毒だったと思う。 女の子でも容赦はなかった。 でも、気丈なYさんは泣きもせず、席に戻って授業を受けた。 この不条理は何なのだろうか…、という空気だった。 2乗と習っていないのに、サンドイッチをくらうとは、どういうことだ…。 今なら、保護者から電話がかかってきて、先生はクビになること間違いないだろう。 どんな時でも、暴力はいけない、ということになっている。 しかし、ぼくらの中学時代は、こういう不条理なことがあっても、親が出てくることなどなく、生徒も仕方ないとあきらめていた。 これは暴力ではなく、当然先生がやっているから教育なのだろう、と思っていたフシがある。 おかげで、ぼくらは程よい緊張感をもって、授業を受けていた。 そういう経験があるから、ぼくは暴力は絶対ダメとは思わない。 時によっては、先生が生徒に体罰を与えるのは当然だ。 体罰と暴力のちがいなど、わかるわけがない。 そんなものは主観的なものだ。 今の子供にはわからないかもしれない。 とにかく、世の中は不条理なこともある、ということがわかるだけでも意味はあった。 その頃の先生は、きっとよかったのだろう。 それくらいの権威があった、と思う。 |
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