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2016.09.10 Saturday
ダンヒルのライター
亡くなった父はわりとヘビースモーカーだった。
ずっとハイライトだったが、途中でセブンスターに変わった。 定年を過ぎて心筋梗塞になって、バイパス手術をした。 それで長いこと吸っていたタバコをやめた。 昭和50年代、日本も豊かになってきて、喫煙者は自分のライターを持っていた。 もちろん、100円の使い捨てライターも出てきていたが、自分のライターを持っているのがステイタスだったような感じだ。 当時の中年サラリーマンは、半分くらいは使い捨てでないライターを持っていたと思う。 女性のバッグやアクセサリーと同じく、ブランド物のライターもあった。 Zippoなどのオイルライターはアメリカのもので安価だったが、ヨーロッパのダンヒルなどはガスの充填式で高かった。 今見ても、6万円くらいする。 男のおしゃれ、という感じだった。 昭和の時代、ライターだけでなく、万年筆、スーツ、ネクタイ、腕時計など、男性のおしゃれアイテムがあった。 もちろん今もあるだろうが、長らく続いた不景気で、そんなものもだいぶ減っただろう。 ライターについては、職場が禁煙になり、タバコを吸わない人も増えた。 タバコの値段も上がって、今や吸っているのは中年以降の人ばかりではないか。 その人たちも、使い捨ての100円ライターがほとんどだ。 ぼくは8年前にタバコはやめたが十数年前に父が亡くなった時、ずっと実家に置いてあったダンヒルのライターをもらってきた。 父も煙草をやめてから使っていなかったし、ぼくも使わなかったので、気になってはいたが埃にまみれ、サビでくすんでいた。 それを今日思い立って、ピカールという仏具を磨く薬品で磨き、石とガスを買ってきてもう一度火をつけてみることにした。 外観はそこそこキレイになったが、ガスを入れ、火をつけてみるとガス漏れしてすぐに使えなくなる。 綿棒でエチルアルコールを使って掃除し、爪楊枝で汚れを落とし、だいぶ苦労したがようやくまともに火がつくようになった。 まだまだガスがすぐになくなって使えなくなるが、パチンと蓋を開け、シュッとローラーを回し、ボッと火がつく一連の動きはまことに美しい。 最後に蓋をパチンと閉じる時のバネの強度も全く衰えていない。 重さといい、持った感じといい、いいものは手に馴染む。 さすが6万円のライターだ。 さて、だからといって、どうなるものでもない。 タバコはやめたから、ライターを持ち歩くわけでもない。 それでも復活したライターを見ると、何となく懐かしい。 あの時代、今より不便で貧しかったが、心は豊かだったような気がするなあ。 |
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