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2014.02.11 Tuesday
とんかつ奇々怪々
とんかつ奇々怪々 東海林さだお 文春文庫
中古で買った。251円。 東海林さだおというと漫画の方が有名。 でも、この人はものを書いても上手だ。 1998年〜2000年に連載されていた「男の分別学」というコラムを集めたもので、その当時の世相を表している。 話題はペット、通販、ラーメン、蒸気機関車、つまようじ、散歩、自殺など、バラエティに富んでいて面白い。 どうして当時気が付かなかったのだろうか。 なかでも、「明るい自殺」という項はマジメに考えさせられる。 スーパーで見た70代と思われる、ズボンのファスナーが全開だった老人に端を発したコラム。 そこで作者は考える。 この老人の毎日はどんなものなのだろう。 朝起きて、ゴハンを食べる。 もはや朝刊も読む習慣はないにちがいない。 そして家族に服装を整えてもらう。 老人はフラフラと家を出て徘徊を始める。 その日、老人は途中のどこかのトイレでおしっこをしたにちがいない。 そのあとスーパーマーケットに入ったにちがいない。 おしっこをしたとき、ズボンのファスナーをしめ忘れたのだ。 でもいまのところは、ブリーフの外に出したものを、用を済ませたあとブリーフの中にしまうという意識はまだ残っている。 だが、この意識がなくなる日は近い。 少なくとも一年後にはなくなっているはずだ。 そのとき彼は、ブリーフの中にしまうものをしまわずに、スーパーマーケットの人混みの中を歩いていくはずだ。 そして人間の尊厳を考え、それを失ってしまったあとの人生を考える。 もちろんそうはなりたくないが、こればっかりはどうにもならないということだ。 そして書く。 これからの人間は、二つの人生を強いられることになる。 呆けるまでの人生と、呆けてからの人生の二つである。 呆けるまでのその人と、呆けたあとのその人は別人である。 人中でモノを出さないことを信条として生きてきた人間と、出して平気という人間は別人である。別人間ではあるが当人であることもまちがいない。 一番悲しいことは、前半の当人が、後半の当人に全く責任が持てないことだ。 こんな無責任な人生ってあるだろうか。 自分の人生に責任を持たない、なんてことがあっていいのだろうか。 そして自殺という考えに至る。 自殺といっても、「明るい自殺」だ。 溜め込んだ睡眠薬とウィスキーを持って冬、雪の降る日に樹海に行って、楽しく酔って夢見るように凍死する、という計画が続く。 いざ死ぬとなるとウィスキーだけでなく、ビールも飲みたいし、おつまみも好きなものを食べたい。 魚肉ソーセージ、さつま揚げ各種、ワサビ漬け、カマボコ…。 それにメザシも食べたいので、コンロも必要になる…。 そういうふうに面白おかしく話は続くが、この問題は考えさせられる。 こんな重たいお話ばかりではない。 トンカツを食べ歩く話もあるし、ラーメンの話もある。 でも、ぼくは「明るい自殺」の話が身につまされた。 こういう話題を自然に読める、この本はいい本だ。 |
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