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2007.07.06 Friday
バカ受け
4年間落語をやったが、一度だけ、バカ受けしたことがある。
後にも先にも、その一度だけは、自惚れではなくバカ受けした。 落研では、練習と慈善を兼ねて、春休みと夏休みに各地の老人ホームを慰問していた。 「今回は、山陽方面」ということになると、神戸、岡山、倉敷、広島あたりの老人ホームにハガキを出して、慰問の依頼をし、OKの返事が来たところを3〜4人のメンバーで訪問する。 参加する部員は10名ちょっとだから、3つのチームに分かれ、一日に1〜2カ所を回るのだ。 3泊4日で行くので、十数件の老人ホームを回ることになる。 あれは、天理の老人ホームだった。 4回生の夏、最後の旅だ。 ネタは「親子酒」という酔っぱらいの親子のネタで、老人ホームでは定番のネタ。 飲み食いをしたり、酔っぱらいが出てくるネタは受けやすいので、よくやったネタだった。 場所は十二畳もあったろうか。普通の和室に座布団を敷いてもらって、そこで演じた。 噺を始めてしばらくして、酔っぱらいが出てくるところあたりで、急に受けだした。 お客さんは20名くらい。ホームの老人と職員の人たちだ。 今日はどうしてこんなに受けるのかな…と思いながらやった。 涙を流して笑っている人もいた。 途中で、一人のおじいさんが、畳の上でころげまわりながら笑いはじめ、やっている本人もビックリした。 もちろん、一緒に行ったメンバーも驚いたようで、弟子(いつもは、弟子の方が受けるのだが…)に「すごいですね」と言われた。 自分もまんざら捨てたものではない…と思っていたが、ものには理由がある。 聞いてみたら、酔っぱらいの話し方が、つい先日ホームで亡くなった酒飲みのおじいさんにそっくりだったから…とのことだった。 「そらそやなあ」と納得し、それでもこれだけ喜んでもらえのだから、やっててよかった、と納得した。 その時以外、バカ受けというのはない。(外したことは数限りなくあるが…) あの時ころげまわって笑ってくれたおじいさんの姿は目に焼きついている。 ぼくは、亡くなったおじいさんは知らないが、きっといい人だったんだろう…と思う。 そうでなければ、あんなにバカ受けするはずがない。 その時だけのお客さんだが、あんな経験は二度とできないし、あの15分ほどの時間は、忘れられない時になった。 今でも、亡くなったおじいさんには感謝している。 いい人たちに囲まれて、幸せな最期の時を送ったにちがいない。 |
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