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2007.06.17 Sunday
ポワロ
エルキュール・ポワロは、アガサ・クリスティが作りだした探偵。
ベルギー人である。 なぜ、クリスティがポワロをベルギー人にしたのか、よくわからないが、会話の端々に出てくるフランス語は、潔癖性でキザなポワロの知性というか、「灰色の脳細胞」というキャラクターをあらわしているような気がする。 ありがとうを「メルシー」、友達を「モナミ」、ミスターを「ムッシュー」という(翻訳でルビがふられている)ポワロは、こないだ書いたフィリップ・マーロウを筆頭とするハードボイルドの探偵とは対極的な探偵だ。 お金に困っていない。 身だしなみに気を遣い、いつもきれいな格好。 美食家で、カネがないときは冷蔵庫に入っているモノで済ましたりしない。 だいたい、小説の舞台が金持ちの集まりだったり、犯人も含めて、上流階級が多い。 一人ではない。 たいがい、ヘイスティングというパートナーを連れている。 力仕事やアブナイ仕事は任せ、もっぱら知的な調査にいそしむ。 この二つは大きい違いだ。 以前、けっこうな数のクリスティのミステリを読んだ。 母がファンだったので、家にたくさんあったからだ。 オリエント急行の殺人、そして誰もいなくなった、ゼロ時間へ…。 イギリスのミステリと、アメリカのハードボイルドとは同じ探偵でも全く違う。 マーロウの事を書いたら、やっぱりポワロの事も書かないと片手落ちになる…という思いがある。 マーロウとポワロの一番の違いは、ポワロは死ぬところまで小説になっている事だと思う。 「カーテン」という作品で、クリスティは文字通りポワロの人生に幕を引く。 早くから最後の作品は書かれていて、金庫に入れられていたとのこと。 この、ちゃんと死ぬところまで書いておく、というのがイギリスらしいなあ…と思う。 カーテンが発表されたときに、ロンドンタイムズではなく、ニューヨークタイムズにポワロの死亡記事が載ったらしい。 このあたり、ニューヨーカーの洒落っ気にロンドンの人たちは悔しい思いをしたのだろうか。 英語がわかれば、当時の新聞を見てみるのだが…。 それはさておき、今の日本に、ポワロのように作品中でなくなったときに死亡記事が出るようなヒーローがいるかな…。 だいたい、作家は自分が作りだしたヒーローを死なせたりしないのか…。 名探偵コナンは死にそうにないし、古畑任三郎はせいぜい定年になるくらいだろう。 考えてもムダか…、日本の新聞社にそんな洒落っ気はないだろう。 |
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